生豆腐なまどうふ)” の例文
炉の四隅に串に生豆腐なまどうふし立て、それへ水を掛けて火防のまじないとする風習は、まだ広く行われている。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
生豆腐なまどうふ手掴てづかみに比べては、勿体もったいない御料理と思った。それにくれるのがやさしげなお婆さん。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分が始めて彼のぜんを見たときその上には、生豆腐なまどうふ海苔のり鰹節かつぶし肉汁ソップっていた。彼はこれより以上はしを着ける事を許されなかったのである。自分はこれでは前途遼遠ぜんとりょうえんだと思った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
高坂はかえって唯々いいとして、あたかも神につかうるが如く、左に菊を折り、右に牡丹ぼたんを折り、前に桔梗ききょうを摘み、うしろに朝顔を手繰たぐって、再び、鈴見すずみの橋、鳴子なるこわたしなわての夕立、黒婆くろばば生豆腐なまどうふ
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たまに来て、もとに変らない叔父の様子を見ると、そこにむかしの自由をおもい出させる或物があった。彼女は生豆腐なまどうふを前に、胡坐あぐらいている剽軽ひょうきんな彼の顔を、過去の記念のようになつかし気に眺めた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)