生薬きぐすり)” の例文
旧字:生藥
ナニ、一寸ちょっと人から聞いただけの話なんだ、半年ばかり前に、芦名という男は多量の亜砒酸を買い入れた事がある。それは生薬きぐすり屋を
悪魔の顔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「家蔵取られた仇敵におうみや」の近江屋は、権現様と一緒に近江の国から東下して十三代、亀島町に伝わるれっきとした生薬きぐすり老舗しにせである。
その都度樹木に特有な冷えびえとした黴臭い生薬きぐすりのやうな匂が、私の心のうちにまでもそつと忍び寄つて来る。
独楽園 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
病気と称して、引籠ってしまった右源太は、生薬きぐすり屋から買ってきたいい加減の煎じ薬を、枕元に置いて
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
よしや蘆が埋ってゆくそばから、大工は家を組み、大工のはいっているうちに、もう白粉おしろいの女が、暖簾のれんの陰で眉をいていたり、酒を売ったり、生薬きぐすりの看板をかけたり
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手広く生薬きぐすりさばいている総領の初太郎が一人っきり、嫁や孫達多勢と一緒、店の方に寝泊りをして、滅多に巣鴨へは来ませんから、まだここへは顔を出しておりません。
「いやうも御記憶のいゝ事で。」と卜新氏は長い間生薬きぐすりと女の唇とをめて来たらしい口をけて笑つた。「あれは往事むかしごと拙者せつしやももう当年八十四歳になりますでな。」
県城通りのえんじゅ並木に、ひときわ目立つ生薬きぐすり問屋がある。陽穀ようこく県きっての丸持まるもちだともいう古舗しにせだ。男はその薬屋の主人で名はけい苗字みょうじは二字姓の西門せいもんという珍らしい姓だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
珠玉、細工物、ギャーマン、羅紗らしゃ、それに南蛮物の生薬きぐすりの数々。その中には万兵衛が呑んだと思われる吐根とこんも、佐太郎を殺したと思われる砒石ひせきも交っていたことはいうまでもありません。