琵琶歌びわうた)” の例文
家の門を這入はいると、今度は門野が、主人の留守を幸いと、大きな声で琵琶歌びわうたをうたっていた。それでも代助の足音を聞いて、ぴたりとめた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
叙事詩と小説の相違は、琵琶歌びわうたと講談の相違である。琵琶歌は感情のなみに乗って事件が語られ、講談はそれがさも有る如く、事件がレアールに描写される。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
縁側からかわやへ行く客の顔は火のように赤かった。やがて和尚さんのまずい詩吟が出たかと思うと、今度は琵琶歌びわうたかとも思われるような一種の朗らかな吟声が聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
またぼう碩学せきがくがかつて那須与一なすのよいち琵琶歌びわうたを聞き、さめざめと泣き出したとき、かたわらの人がこの勇壮なる歌を聞き、何で泣かるるか、ことに与一が弓を満月のごとく引き絞り、矢を放った時
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
近代日本女性の複雑な恋愛が新内しんないによって表現される訳には行き難いし、われわれの悲しみを琵琶歌びわうたを以て申上げる事もずかしいのである如く、あの粘着力ある大仕掛にして大時代的な
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
ここらでただ一軒という寄席よせ青柳亭あおやぎていが看板のおろす頃になると、大股に曳き摺って行くような下駄の音がとしきり私の門前を賑わして、寄席帰りの書生さんの琵琶歌びわうたなどが聞えます。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ふたたび起きあがったときはるかに生蕃の琵琶歌びわうたが聞こえた。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
やがて「琵琶歌びわうたですか、それは」と言った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)