琴線きんせん)” の例文
友の眉には無限の愁思あり、友の胸には無限の琴線きんせんあり。われはこれに觸れんとして、却つてわが情の純ならざるを悔ひぬ。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
それであればこそ路傍ろぼう耳朶じだに触れた一言が、自分の一生の分岐点ぶんきてんとなったり、片言かたことでいう小児しょうにの言葉が、胸中の琴線きんせんに触れて、なみだの源泉を突くことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
子供達は、既に何等琴線きんせんに触れることなき、勧善懲悪ちょうあく式の古いお伽噺から離脱してしまったけれど、まだこれに代わるべき、美しき鮮彩な夢を持たずにいます。
いちいち彼女の琴線きんせんには、こころよい語感になって、雌蕊めしべの命をふるわすのだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……灯影ほかげにすかして見ると例のヴァイオリンが、ほのかに秋のを反射して、くり込んだ胴の丸みに冷たい光を帯びています。つよく張った琴線きんせんの一部だけがきらきらと白く眼にうつります。……
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
感情の琴線きんせんは純で一途いちずだった。じょうきわまると子供みたいなむせびを洩らす。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ぼくら日本に生きる者の肉親感の琴線きんせんをかなでるものらしい。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
琴線きんせん
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)