現前げんぜん)” の例文
行灯あんどう蕪村ぶそんも、畳も、違棚ちがいだなも有って無いような、無くって有るように見えた。と云ってはちっとも現前げんぜんしない。ただ好加減いいかげんに坐っていたようである。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そんな時には自分の信仰の内容を現前げんぜんせしめようとしてもそれが出来ない。その代りに悲しい記憶が呼び出されて来る。そして自分の遁世したのを後悔するやうになつて来る。
あたま巓邊てつぺんからあし爪先つまさきまでこと/″\公案こうあん充實じゆうじつしたとき、俄然がぜんとして新天地しんてんち現前げんぜんするので御座ございます
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
女だと見下ろしながら、底気味の悪い思いをしなければならない場合が、日ごとに現前げんぜんした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
我ながらよくこんなに器用にっていられたものだと思う。第三の真理が驀地ばくち現前げんぜんする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それでお前はその自由をほうり出そうとするのか。では自由を失ったあかつきに、お前は何物をしかと手に入れる事ができるのか。それをお前は知っているのか。御前の未来はまだ現前げんぜんしないのだよ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)