玄冶店げんやだな)” の例文
なに蝙蝠こうもりの形に似て居ますって? 私の名は「やす」ではありませんよ。玄冶店げんやだな妾宅しょうたくに比べるとちとこの法医学教室は殺風景過ぎます。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
外に立っている男は、唐桟とうざんの襟のついた半纏はんてんを着て、玄冶店げんやだな与三よさもどきに、手拭で頬かむりをしたがんりきの百蔵であります。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
洗い髪同様の髪を玄冶店げんやだなのおとみ式にうしろに投げ卸して、その先を三つ組にして輪飾りの七五三のようにしているのがある。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
帝劇で一谷と玄冶店げんやだなとを見る。一の谷。この前市村で吉右衛門のを見た。その時の方が幸四郎の熊谷よりよかった。
水溜りに取られまいと千鳥脚ちどりあしを踏み締めながら、ただひとり住吉町を玄冶店げんやだなへ切れて長谷川町へ出るころには、通行人が振り返って見るほどへべれけに酔いれていた。
専業の幇間ほうかんで、当時山城河岸の家へ出入していたものは、桜川善孝、荻江おぎえ千代作、都千国、菅野すがののん子等である。千国は初の名が荻江露助、後に千中と云う。玄冶店げんやだなに住んでいた。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あくる年の春早々、次郎吉の病癒ゆるを待って当時豪放豪快な画風を以て江戸八百八町に名を諷われていた浮世絵師一勇齋国芳いちゆうさいくによし——その国芳の玄冶店げんやだなの住居へと、内弟子に預けたのだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
玄冶店げんやだなにいた国芳くによしが、豊国とよくにと合作で、大黒と恵比寿えびす角力すもうをとっているところを書いてくれたが、六歳むっつ七歳ななつだったので、何時いつの間にかなくなってしまった。画会なぞに、広重ひろしげも来たのを覚えている。
外出する時はお梅さんという玄冶店げんやだなの髪結いに番を入れさせ、水々した大丸髷おおまるまげを結い、金具に真珠をちりばめた、ちょろけんの蟇口型がまぐちがたの丸いオペラバックをげ、どこともいわず昼間出て行くのだったが
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
遊民というのは、玄冶店げんやだなの芝居に出てくるような種類の人。赤間の源左衛門もいれば、切られないの与三よさもいる。お富を一段上へ行ったようなお角がいないのが物足りない。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
がんりきの百蔵は、唐桟とうざん半纏はんてんかなにかで、玄冶店げんやだな与三よさもどきに、ちょっと気取って
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それは玄冶店げんやだなの与三郎もどきの文句でありました。その文句でお角が気がついて
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)