牽引力けんいんりょく)” の例文
少し大袈裟おおげさに云うならば、彼女を東京から関西の方へき寄せる数々の牽引力けんいんりょくの中に、この鮨も這入っていたと云えるかも知れない。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
依然、そのお方の持つ不可思議な牽引力けんいんりょくにぐいぐい吸い込まれそうな自分を感じつつ内心でそのふちに踏みとどまらんとしていたからであった。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫌いな変装までして、伊志田邸に泊まり込むことになったのも、この美青年の不思議な牽引力けんいんりょくによるものであった。
暗黒星 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
大凧が充分に風をはらんで揚がる時は若者の二人や三人は引きずられるくらいの強い牽引力けんいんりょくをもっている。
田園雑感 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
以来二十番台の牽引力けんいんりょくが強くなって、大抵十八九番に重心じゅうしんたもった。これぐらいの出来栄できばえなら人から恨まれる心配はない。もっとクラスは常に一致和合して無事平穏だった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
牽引力けんいんりょくのそこにもあるのを覚えたが、にわかにそちらへ恋を移す気にこの人はなれなかった。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
女も男から離れなければ成仏しにくくなる。今までの牽引力けんいんりょくがたちまち反撥性はんぱつせいに変化する。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小さいモーターが廻る。だんだんと大きな牽引力けんいんりょくが起り、電力が発生し、やがて二つの硬球こうきゅうが双方から寄って来て、ぐるぐると回転をはじめる。するとこの箱がめりめりと壊れる。
即ち彼のうちにあって表現を求めている愛に、粗雑な、見当違いな満足を与えんが為めに、愛国とか、自由とか、国威の宣揚とかいう心にもない旗印をかかげ、彼の奇妙な牽引力けんいんりょく
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし女性としての魅力は容易ならぬものがあり、最初サンドを嫌い抜いていたショパンが、次第にそのあやしの牽引力けんいんりょくに引き寄せられ、抜き差しのならぬ心持になったことは想像に難くない。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
四 牽引力けんいんりょくと消滅
彼の注意も、また志向も、たえず中央の牽引力けんいんりょくといったようなものに、ひかれていた。
其所そこいささか人を魅する牽引力けんいんりょくを失う恐がひそんでいるという意味でも読みづらい。