牝豹めひょう)” の例文
猿沢夫人は痩せぎすの、敏捷びんしょうそうな身体つきの女性です。顔は美しいけれどもやや険があって、それは牝豹めひょうか何かを聯想れんそうさせました。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ミチはきつい眼になり、その白い頬を痙攣けいれんさせ、構えもせずに牝豹めひょうを思わせる敏捷びんしょうさで男に飛びつくと、その口に近い皮膚を力をこめてつねった。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
弱いうさぎを、苛責いじめる牝豹めひょうか何かのように、瑠璃子は何処どこまでも、皮肉に逆に逆に出るのであった。美奈子は、青年の顔を見るのにえなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いつまでも、いつまでも、獲物を狙う牝豹めひょうのような感じで、名探偵を凝視しつづけた。真暗な中から、ひどく弾んだ息遣いが、ハッハッと薄気味悪く聞えた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
なんにも言えず飼い馴らされた牝豹めひょうのように、そのままそっと、辞し去った。お庭の満開の桃の花が私を見送っていて、思わずふりかえったが、私は花を見て居るのではなかった。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「中国の人間どもは、孔明孔明とみな怖れるが、この孟獲の眼から見れば、一匹の象、一匹の牝豹めひょうにも足りない。いわんやその下の野狐城鼠やこじょうそどもをや。——やい、忙牙長ぼうがちょう、あいつをつぶせ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は牝豹めひょうの前のうさぎのごとく、葉子を礼讃らいさんし、屈従していた。処女のような含羞はにかみがあるかと思うと、不良少年のような聡慧そうけいさをもっていたが、結局人間的には哀れむべき不具者としか思えなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)