熟視じゅくし)” の例文
余はことに彼ヤイコクが五束いつつかもある鬚髯しゅぜん蓬々ぼうぼうとしてむねれ、素盞雄尊すさのおのみことを見る様な六尺ゆたかな堂々どうどう雄偉ゆうい骨格こっかく悲壮ひそう沈欝ちんうつな其眼光まなざし熟視じゅくしした時
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼は何か思う所あるらしく、死体の上にかがみ込んで、しばらく、死人の物すごい形相を熟視じゅくししていたが、ヒョイと手を出して、頬のあたりをおさえて見た。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
心さえ急かねばはかられる訳はないが、他人にしてられぬ前にというのと、なまじ前に熟視じゅくししていて、テッキリ同じ物だと思った心のきょというものとの二ツから
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
自然の循環はめぐって来ておる。自分等の細腕をながめたらやれまいが、天の運行を熟視じゅくしすれば、時は近いということがわかる筈だ。天文を説く予言者の言と同一に思ってはいけない。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近づくままに熟視じゅくしすると、岸には百じょう岩壁がんぺきそばだち、その前面には黄色な砂地がそうて右方に彎曲わんきょくしている、そこには樹木がこんもりとしげって、暴風雨のあとの快晴の光をあびている。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
辰男は立上りざま初めて兄の顔を熟視じゅくしした。……四年前よりも父の顔にいちじるしく似通っていた。兄が身体を屈めて、英作文を一二行見ている間に、辰男は帽子をかぶりトンビを着て直立していた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)