灰汁桶あくおけ)” の例文
かたの角の蕎麦屋の台所口とがつづいたあと、右には同じく浅倉屋の土蔵、左には、表に灰汁桶あくおけの置かれた女髪結のうちがあった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
まず前にも例示した『灰汁桶あくおけ』の巻を開いて見る。芭蕉の「あぶらかすりて」の次の次に去来の「ならべてうれし十のさかずき」が来るのである。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
空は灰汁桶あくおけぜたような色をして低く塔の上に垂れ懸っている。壁土をとかし込んだように見ゆるテームスの流れは波も立てず音もせず無理矢理むりやりに動いているかと思わるる。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、突然頭の上で、ごろごろと春のらいが鳴った。仰向あおむいて見ると、空はいつの間にか灰汁桶あくおけきまぜたような色になって、そこから湿っぽい南風みなみかぜが、幅の広い砂利道じゃりみちへ生暖く吹き下して来た。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
有名な「灰汁桶あくおけ」の連句の中に、去来きょらい
かぶらずし (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
灰汁桶あくおけしずくやみけりきり/″\す 凡兆
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
ジャズのラッパとは別の味がある。「灰汁桶あくおけのしずくやみけりきりぎりす」などはイディルレの好点景であり、「物うりの尻声しりごえ高く名乗りすて」
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
片っぽの角の蕎麦屋そばやの台所口とのつづいたあと、右には同じく浅倉屋の土蔵、左には、おもてに灰汁桶あくおけの置かれてあったような女髪結のうちがあった。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
灰汁桶あくおけの雫やみけりきり/\す 凡兆
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
試みにやはり『灰汁桶あくおけ』の巻について点検すると、なるほど前句「摩耶まや」の雲に薫風を持って来た上に「かますご」を導入したのは結構であるが
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その女髪結のうちの前に灰汁桶あくおけの置かれてあったことを不思議に覚えている。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
灰汁桶あくおけのしずくやみけりきりぎりす」「あぶらかすりて宵寝よいねする秋」という一連がある。これに関する評釈はおそらく今までに言い尽くされ書き尽くされているであろうと思う。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
表に灰汁桶あくおけの置かれてあるような女髪結おんなかみゆいのうちがあった。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
前掲「灰汁桶あくおけ」の句ではしずくの点滴の音がきりぎりすの声にオーバーラップし
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
有名な「古池やかわず飛び込む水の音」はもちろんであるが「灰汁桶あくおけのしずくやみけりきりぎりす」「芭蕉ばしょう野分のわきしてたらいに雨を聞く夜かな」「鉄砲の遠音に曇る卯月うづきかな」等枚挙すれば限りはない。
映画芸術 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)