瀝青チャン)” の例文
ある朝、一八四五年七月のある記憶すべき朝、瀝青チャンのいっぱいはいった黒いかまがけむってるのがそこに突然見られた。
O君はそこを通る時に「どっこいしょ」と云うように腰をかがめ、砂の上の何かを拾い上げた。それは瀝青チャンらしい黒枠の中に横文字を並べた木札だった。
蜃気楼 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
瀝青チャンみてえに暑くって、仲間の奴らあ黄熱でばたばたたおれるとこにもいたことがあるし、地震で海みてえにぐらぐらしてる御結構な土地にもいたことがある。
飯を食うと、ぼくは直ぐAデッキに出て、コオチャア黒井さんが昼寝している横の、デッキ・チェアにこしを降し、瀝青チャンのように、たぎった海を見ています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
大石を切り出し大木を倒し、瀝青チャンを練り彫刻を施し、着々と工事を進めて行った。と、障害にぶつかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私に飛びかかって来て、両手で馬勒に縋りついて、顔も手も瀝青チャンだらけにしながら身悶えて泣くのです。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
強い潮の香に混って、瀝青チャンや油の匂いが濃くそのあたりを立てめていた。
冬の蠅 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
「万年雪」の氷っているものは、幾らかの碧味あおみを見る。しかし大石の下になって凍っている雪などを見ると、内部からの光の反射を妨げるために、暗黒で透明で、瀝青チャンの色に見えることがある。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
勿論この瀝青チャン様のものが、ウラニウムを含むピッチブレンドであることは云うまでもあるまい。そして、僕がいつぞや指摘した四つの聖僧屍光、それがことごとくボヘミア領を取り囲んでいるのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
水中燃焼物もアルキメデスの名を汚すものではなく、沸騰せる瀝青チャンもバイヤールの名を汚すものではない。戦争はすべて恐怖であり、武器を選ぶの暇はない。
瀝青チャンが板の接目つぎめで泡立っていた。その場所に漂う気持の悪い悪臭が私の胸を悪くさせた。もし熱病や赤痢を嗅げる処があるとするなら、あの厭な碇泊所こそ正にそれであった。
一里四方の城壁で、漆喰しっくい煉瓦れんが瀝青チャンとをもって、堅固に造られているのである。高さおおかた五十尺、その厚さに至っては十人の男が肩を並べて自由に歩けるほどであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
瀝青チャンを塗ったように黒くなることがある、「黒い雪」というものは、私は始めて、その硫黄岳の隣りの、穂高岳で見た、黒い雪ばかりじゃない、「赤い雪」も槍ヶ岳で私の実見したところである。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
足下の砂浜は瀝青チャンのようで、足の裏はすいついてしまう。それはもう砂ではなくてもちである。
森の中の瀝青チャンのような、くろずんだ水溜りは、川流が変って、孤り残された上へ、この頃の雨でにわたずみとなったのであろう、その周囲には、緑の匂いのする、かびの生えた泥土があって、くるぶしまで吸いこまれる
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
瀝青チャンを塗った庇帽ひさしぼう、恐ろしいきたない毛織りの頭巾帽ずきんぼう、それから短い仕事着やひじのぬけた黒い上衣、多くは婦人用の帽子をかぶり、またある者はかごをかぶり、毛深い胸が現われており
瀝青チャンを塗った柳編みの屋根のついてる一種の従軍行商人の小さな車のようなものが止まっていて、くつわをつけたまま蕁麻いらくさを食ってる飢えたやせ馬がそれにつけられていて、その車の中には