濶然かつぜん)” の例文
今まで歩いていた山路を出て、濶然かつぜんたるながめひらけた感じと、菜の花に夕日の当っている明るい感じとが、ぴたりと一緒になっている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
武松は、久しぶりに濶然かつぜんたる胸をひらいて、愉快でたまらず、大酔して蹣跚まんさんとした足もとを、やがて召使の手にたすけられながら、外へ出て
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山のおじが雲からのぞく。眼界濶然かつぜんとして目黒にひらけ、大崎に伸び、伊皿子いさらごかけて一渡り麻布あざぶを望む。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日まで四六時ちゅう縛られていた、「兵法」の殻から、彼はいま濶然かつぜんと脱出した気がする。
内蔵允留守 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
南は濶然かつぜんとひらけている。さて北は鬱々うつうつとして何んの物音も聞こえないのは、山また山があるからであろう。おや、女の泣き声がする! 一人ではない二人らしい! 手近の所で泣いている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
濶然かつぜんと哄笑した一風は、なおも筆を走らせ
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「もし、助かったら、他日、恩賞の日、其許そこを武将の叙位じょいの第一に推挙しよう。ああなにやら、濶然かつぜんと、闇がひらけて来たような。……道誉、忘れ難い一夜だな」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「胸が、濶然かつぜんと、開けたここちがします。十兵衛どの。亡父ちちの霊へよい手向たむけをしました」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)