潸々さんさん)” の例文
私は、その後手に縛られた両手を見ました時、はらわたを切りさいなむような憤と共に、涙が、——腹の底から湧き出すような涙が、潸々さんさんとして流れ出ました。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
私はその不幸の子の為に、今こそ潸々さんさんと涙を注ぎます。可哀そうな子供、父の愛を少しも味わないで、淋しく死んで行った子。本当に哀れな子でした。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
兄孫権の手紙を読むうちに、もう紅涙こうるい潸々さんさん、手もわななかせ、顔も象牙彫ぞうげぼりのように血の色を失ってしまった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちには新酒の蓋あけのころともなって秋の深さは刻々に胸底へにじんだ。倉一杯にあふれる醇々じゅんじゅんたる酒のもやは、ければあわや潸々さんさんとしてしたたらんばかりの味覚に充ちよどんでいた。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
潸々さんさんと涙をながしている女囚のひとたちの深い傷痕きずあとがおもいやられて来るのです。
怨に燃ゆる女の眼からは、潸々さんさんとして払うことの出来ない涙が湧きました。
青い眼鏡 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
の方孝友が、方孝孺とともに死にくに際し、「阿兄何ぞ必ずしも涙潸々さんさんたらん、義を取り仁を成すはこの間にり、華表柱頭千載の後、夢魂旧に拠りて家山に到らん」の一詩をもってこれに比すれば
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
私は、母の愚かな期待を思い出すごとに、彼女の無智を憫む潸々さんさんたる涙を抑えることは出来ません。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
千浪とても、最前から顔を上げ得ないで、ただ心の底へ潸々さんさんなみだをのんでいる。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ潸々さんさん、涙あるのみ
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)