渋蛇しぶじゃ)” の例文
旧字:澁蛇
青銅からかねの鳥居をくぐる。敷石の上に鳩が五六羽、時雨しぐれの中を遠近おちこちしている。唐人髷とうじんまげった半玉はんぎょく渋蛇しぶじゃをさして鳩を見ている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
暁雨が渋蛇しぶじゃかさをさして出たというので、その当座はしばらく渋蛇の目の傘が市中に流行したのを見ても、その人気が思いやられた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
七八間先けんさききざみに渋蛇しぶじゃよこを、一文字もんじ駆脱かけぬけたのもつか、やがてくびすかえすと、おにくびでもったように、よろこいさんでもどった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
やがて渋蛇しぶじゃの目を開く音がして「また明晩」と若い女の声がする。「必ず」と答えたのは男らしい。三人は無言のまま顔を見合せてかすかに笑う。
一夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)