涼気すずけ)” の例文
旧字:涼氣
「まあ然うですな。その代り涼気すずけが立てばとても気が荒くなって帰って来ますよ。お頼み申したって彼方にいることじゃありません」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なあに秋にでもなって涼気すずけが立てば脚気も癒るから。夏は東京は暑いだろうな、そんなに急いで行くにや及ばん、涼しくなってから帰えれ。
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
山国のこの寂れた町に涼気すずけが立って来るにつれて、西北にそびえている山の姿が、薄墨色の雲にとざされているような日が続きがちであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
沼尻ぬまじりのあたりは、涼気すずけがあろうから、身の皮をいでなりと、風に吹かれて来るがよい。おれに参酌しんしゃくはいらぬ」
ひどい煙 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その一夏もあわただしく過ぎて、やがて涼気すずけの立つころになると、持ち越しの葉子の別れ話も、急に具体化しそうになって来た。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
まだ涼気すずけの残っている京浜国道を、ギャリソン帽にズボンだけの、ピンクに日灼けした半裸体の俘虜を乗せた大型トラックが二十台ばかり、一列になってやってきた。
春雪 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
うらめしいような腹立たしいような、やるせない思いに疲れた神経の興奮が、しっとりしたがた涼気すずけに、やっとすやすややされたのであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
少し涼気すずけが立ってから、叔母が上州の温泉へ行った留守に、しばらく田舎へ行っていた母親がまた戻って来て、お庄と一緒に留守をすることになった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
涼気すずけの立ちはじめた時候に相応した新調の着物を着たり着せたりして、打連れて陽気な人寄場ひとよせばなどへ入って行った。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
雑作も棄売りにして、それで滞っていた払いをすましたり、自分もいくらか懐へ入れて、町に涼気すずけの立った時分に、湯島の伯母の家を俥で出て行った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お島はどうしてもぴったり合うことの出来なくなったような、その時の厭な心持を想出しながら、涼気すずけの立って来た忙しい夕暮の町を帰って来たが、気重いような心持がして
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
二、三日めっきり涼気すずけが立って来たので、姑は単衣ひとえの上に娘の紋附の羽織などを着込んでいた。お庄も中形のうえにしまの羽織を着て、白粉を塗った顔をでながら傍へ来て坐った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
涼気すずけでも立ったら、ちっとはいい方へ向くかしらんなんてそう言っていますの。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その年ももう涼気すずけの立ちはじめるころであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)