涼台すずみだい)” の例文
夏の夜の事で、その辺の芸者家ではいずれもまだ戸を明けたまま、芸者は門口の涼台すずみだいに腰をかけて話をしているのを、男はなれなれしく
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
やっぱり花火というものは、夏の夜にみんな浴衣ゆかたを着て庭の涼台すずみだいに集って、西瓜すいかなんかを食べながらパチパチやったら一ばん綺麗に見えるものなのでしょうね。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
夏の下町の風情ふぜいは大川から、夕風が上潮あげしおと一緒に押上げてくる。洗髪、素足すあし盆提灯ぼんちょうちん涼台すずみだい桜湯さくらゆ——お邸方や大店おおだなの歴々には味えない町つづきの、星空の下での懇親会だ。
蘇生いきかえるような空気が軒へ通って来た。夕方から三吉は姪を集めて、遠く生家さとの方に居るお雪のうわさを始めた。表の方の農家でも往来へ涼台すずみだいを持出して、夏の夜風を楽しむらしかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
蘿月は女房のおたきに注意されてすぐにも今戸へ行くつもりで格子戸こうしどを出るのであるが、そのへん涼台すずみだいから声をかけられるがまま腰をおろすと、一杯機嫌いっぱいきげん話好はなしずき
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三枚つづき五枚つづき、似顔絵のうまい絵師のが絵草紙屋えぞうしやの店前にさがると、何町のどこでは自来也じらいやが出来たとか、どこでは和唐内わとうない紅流べにながしだとか、気の早い涼台すずみだいのはなしの種になった。