没頭ぼっとう)” の例文
旧字:沒頭
しかし教育の機関が金もうけに没頭ぼっとうしなければ立って行けないというようでも困るからね。田沼さんもそのことを言って非常に喜んでいられたよ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
いわゆる奮闘いわゆる努力等に没頭ぼっとうする者は、ほとんど一粒の種も残さずに自分の力を消耗しょうもうするおそれあるをみる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
和尚おしょうは朱筆に持ちかえて、その掌に花の字を書きつけ、あとは余念よねんもなく再び写経に没頭ぼっとうした。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
その間に針目博士——いや、まだ博士にはなっていない針目左馬太学士はりめさまたがくしは、大学の研究室を去って、みずから針目研究室を自分の家につくり、ひたむきな研究に没頭ぼっとうした。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
富士男は毎日その研究に没頭ぼっとうしていたが、ある日ゴルドン、ドノバンのふたりにこういった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
しかし私は毎日のように、ほとんど部屋に閉じこもったきりで、自分の仕事に没頭ぼっとうしていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
僕はもう観察修行は犠牲にして、側目わきめもふらず受験準備に没頭ぼっとうし始めた。不思議なもので、勉強していると入れるような心持がする。怠けていると駄目なような気分になる。
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
なぜなれば、我々全青年の心が「明日」を占領した時、その時「今日」のいっさいが初めて最も適切なる批評をくるからである。時代に没頭ぼっとうしていては時代を批評することができない。
階下では妻と子が病気で呻吟しんぎんしているが、近頃は薬餌やくじの料も覚束おぼつかない有様であるのに、もしベルリオーズが金儲かねもうけの俗事を放擲ほうてきして、交響曲シンフォニーの作曲に没頭ぼっとうしたらどんなことになるだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
私はこの頃人造宇宙線の実験に没頭ぼっとうしているが、いつもこの種の不安を忘れかねている次第しだいである。人造が出来るようになってからは宇宙線の流れる数は急激に増加した。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
女達がその自由意志、欲情を抑え、自ら一人の犠牲者に甘んじて一つの目的に没頭ぼっとうするとき、如何なる男も彼女等以上に周到しゅうとうな才気と公平な観察を発揮することはできないものだ。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
次郎は、はじめの十日間ばかりは、朝倉夫人と二人で、毎日その整理に没頭ぼっとうした。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)