氏素性うじすじょう)” の例文
何処どこから出た乞食こじきだよ、とまたひどいことを言います。もっと裸体はだか渋紙しぶかみに包まれていたんじゃ、氏素性うじすじょうあろうとは思わぬはず。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女はもともと氏素性うじすじょういやしくない人の娘であったし、劉家も元来正しい家柄なので、そういう品もどこかに何十年も使用せずにしまってあった。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとから聞いてみると、それは新聞社から来た写真屋がマグネシュームというものをいたので、あくる日になるとその写真が私の氏素性うじすじょうと一所に大きく新聞に出た。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……其許そこもとの気に入りしものなれば当方に異存も無之次第これなきしだいながら、余り颯急さっきゅうのことにていささか不安を感じ申候。先方の氏素性うじすじょうは無論充分御調査のことと存候が、如何いかがに候哉。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
わしはこれからまた一旗挙げるのだ、承知か、おお、承知してくれるか、女三界に家なし、どこにいたって駄目なものだよ、などと変な事まで口走り、婿の氏素性うじすじょうをろくに調べもせず
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
沖縄諸島の住民がそれにもかかわらず、いつまでも彼らの氏素性うじすじょうを記憶し、または格別おそろしいこともないのに、或る程度の畏敬いけいをもって是に応接していたのは、何か隠れたる動機がなければならぬ。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そうだ、氏素性うじすじょうも知れない婦人をと、疑ぐっておるのじゃろうが、心配するな。このお方は、つい先頃までの、この地方県城を預かっておられた領主のおじょうさまじゃ。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
品夫はたしかに氏素性うじすじょうのハッキリしない者の娘で、しかも変死者の遺児わすれがたみに相違無いのです。つまり、その犯人が捕まらないために、何もかもが有耶無耶うやむやに葬られた形になっているので……
復讐 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
特にその氏素性うじすじょうを説き立てたものがある。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
綽空しゃっくうというんです。——なんでも、氏素性うじすじょうはよい人だそうですがね。……それにしても」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとい返事をしてやったおかげで、私の自由が得られるような事があったとしても、その時に私のホントウの氏素性うじすじょうや、間違いのない本名が聞かれるかどうか、わかったものではないではないか。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)