たぐい)” の例文
しかしその健脚はわたくしのたぐいではなかった。はるかにわたくしにまさった済勝せいしょうの具を有していた。抽斎はわたくしのためには畏敬いけいすべき人である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかも同時に彼に取っては憎んでも憎み足りない妻を盗んだ曲者であり、又惨虐たぐいなきラスト・マーダラアなのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
モーツァルトの絢爛けんらんさもブラームスの端正さもないが、なつかしさと優しさと、み出る愛情と輝く美しさは、人間に音楽あって以来、かつて例を見ざるたぐいのものである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
女子の名のみ挙げ、そしてその女子が全国にたぐいなく美しくかつ男の子同様産業を分与せられたと特記したのは、女子をば特別に貴ぶ当時の風習の表われとして注意すべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
恐ろしい程豊麗ほうれいな全き女性に変えてしまったと同時に、その昔の無邪気な天使を、柾木の神様でさえあった聖なる乙女おとめを、いつしか、妖艶たぐいもあらぬ魔女と変じていたのである。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)