此処このところ)” の例文
旧字:此處
そのしつは当時家中かちうきこえし美人なりしが、女心をんなごころ思詰おもひつめて一途に家を明渡すが口惜くちをしく、われ永世えいせい此処このところとゞまりて、外へはでじと、その居間に閉籠とぢこもり、内よりぢやうおろせしのちは、如何いかにかしけむ
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
嫁女の事より人をあやめ、長崎に到りて狼藉の限りをつくされしが、過ぐる晩春の頃ほひ、丸山初花楼の太夫、初花の刑場を荒らし、天地のかん、身を置くに所無く、今日こんにち此処このところに迷ひ来られし人とおぼし。
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
此処このところ寛政三年波あれの時、家流れ人死するもの少からず、此の後高波の変はかりがたく、溺死できしの難なしというべからず、これに寄りて西入船町を限り、東吉祥寺前に至るまでおよそ長さ二百八十間余の所
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)