欝陶うつたう)” の例文
まだ若さうな着流し、彌造が板について、頬冠ほつかぶりは少し欝陶うつたうしさうですが、素知らぬ顏で格子から赤いお神籤を解く手は、恐ろしく器用です。
城内と云はず郊外と云はず空一面、蒙古もうこ砂漠さばくからのあの灰いろのほこりに包まれてしまつた。これがこの都会の名物なのだ。静かだが霖雨りんうのやうに際限なく欝陶うつたうしい。
南京六月祭 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
判事はあの欝陶うつたうしい部屋で、あの気色きしよく悪い人間の死をおとづれることを避ける為には、少くない金をもをしまなかつた。婚礼と新築祝ならいつでも行くんだけれど、俺は病人や葬式は真平だ。
公判 (新字旧仮名) / 平出修(著)
欝陶うつたうしいたましひの旅が始まる……
冬の歌 (新字旧仮名) / 三富朽葉(著)
一つは眞砂町の喜三郎の向うを張つて、厄介な事件に捲き込まれる欝陶うつたうしさが嫌だつたのでせう。
番頭の金五郎の顏には謹み深いたしなみはあるにしても、さして欝陶うつたうしい悲歎の色もありません。
例へば狹くて欝陶うつたうしい平次の家の庭の隅に遠慮しい/\吹いてゐる、紫陽花あぢさゐのやうな——。
髮の毛の欝陶うつたうしいほど多い、ブルース唄ひのやうに少し聲の皺枯しわがれた、そのくせ血色があざやかで、滿身こと/″\こびと肉感とででつちあげたやうなお染は、百足屋の内儀お貞の、淋しくつゝましく
伜の金五郎の家出の原因といふのは、少し遊び過ぎただけの事で、大した問題ではありませんが、それより吾妻屋に取つて欝陶うつたうしい問題は、ツイ地續きの隣に住んでゐる、田島屋との紛紜いざこざでした。
欝陶うつたうしい日が續きました。親分の錢形平次はまだ歸らず、お靜を相手の留守番には八五郎の叔母が行つてくれましたが、石原町の吾妻屋殺しの方は一向目鼻もつかなかつたのです。三日目の晝頃。
「親分が、あの伜と掛け合つてゐるうち、あつしは二、三人達者な奴と逢つて來ましたよ。何しろあの青瓢箪あをべうたん野郎と來た日にや、煮え切らなくて、欝陶うつたうしくて、話をしてゐると、しびれがきれるでせう」
お紋はさう言ひ乍ら、欝陶うつたうしさうに島田髷のかつらを取るのでした。