枯薄かれすすき)” の例文
私の家などは町から五里、隣は枯薄かれすすきの空屋敷であって、どの窓からも一本ずつ、かなり大きな松の樹が見える。
はじめ、その山、その岩、その霜、蜜柑畑も枯薄かれすすきも、娘の姿も車夫のさまも、浮世に遠き趣ならずや。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時自分は、浜のつつみの両側に背丈よりも高い枯薄かれすすき透間すきまもなく生え続いた中を行く。浪がひたひたと石崖いしがけに当る。ほど経て横手からお長が白馬を曳いて上ってきた。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「それは行燈あんどんの変形だ、枯薄かれすすきを幽霊と見るようなものだ、では、だれか行って見届けておいで」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ここには主として武田君の考定されたものを採用してあるが、同君もその後更に新しい材料にって改称されたものがあるかも知れぬと思う。この頂上は平で南面には枯薄かれすすきが立っている。
初旅の大菩薩連嶺 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
そのはてには、一帯の山脈が、日に背いてゐるせゐか、かがやく可き残雪の光もなく、紫がかつた暗い色を、長々となすつてゐるが、それさへ蕭条せうでうたる幾叢いくむら枯薄かれすすきさへぎられて、二人の従者の眼には
芋粥 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
がさりと音を立てて枯薄かれすすきの中へ仰向あおむけに倒れた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)