くさ)” の例文
「庇の上は苔もそっくりして居るし、人間の歩いた様子もありません。くさった板屋根だから、忍び込んだ曲者くせものを突き飛ばせば、足跡位は残りますよ」
おれの著物は、もうすっかりくさって居る。おれのはかまは、ほこりになって飛んで行った。どうしろ、と言うのだ。此おれは、著物もなしに、寝て居るのだ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
その低い、くさつて白く黴の生えた窓庇とすれ/\に、育ちのわるい梧桐あをぎりがひよろ/\と植つてゐる。
哀しき父 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
こわれた家のため街路に残った空地は、五本の標石でささえられてるくさった板塀いたべいで半ば占められている。板塀の中には、まだ倒れないでいる廃屋によせかけて作った小さな板小屋が隠れている。
「部分的にはくさっているとこもあるが、大丈夫でしょう」
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところであの中二階のくさつた手摺に飛び付いて、樂々と出入りの出來るのは、猫の子か角兵衞獅子か、躰術の名人だ。
彼はげた一閑張いつかんばりの小机を、竹垣ごしに狭い通りに向いた窓際まどぎはゑた。その低い、くさつて白くかびの生えた窓庇まどびさしとすれ/\に、育ちのわるい梧桐あをぎりがひよろ/\と植つてゐる。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
へエ、それくらゐの輕業が出來る奴なら、離屋はなれの中二階のくさりかけた手摺に飛び付いて、樂に忍び込めるわけで——
ワクのくさつた赤土の崖下の蓋のない堀井戸から、ガタ/\とポンプで汲み揚げられるやうになつてゐて、その上が寺の湯殿になつてゐた。若い女の笑ひ聲なども漏れてゐることがあつた。
哀しき父 (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
「庇の上はこけもそつくりしてゐるし、人間の歩いた樣子もありません。くさつた板屋根だから、忍び込んで曲者を突き飛ばせば、足跡くらゐは殘りますよ」
ワクのくさつた赤土の崖下のふたのない掘井戸から、ガタ/\とポンプでみ揚げられるやうになつてゐて、その上が寺の湯殿になつてゐた。若い女の笑ひ声なども漏れてゐることがあつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
「庇がくさつて、苔だらけだ。人間が踏めば直ぐわかるよ、——だが、念のために、窓の下と、桐の根許を見てくれ。人間の足跡か、梯子を掛けた跡があればしめたものだ」