朱色しゅいろ)” の例文
其が夥間なかまの一人だつたのが分つたから、声を掛けると、黒人くろんぼ突倒つきたおして、船は其のまゝ朱色しゅいろの海へ、ぶく/\と出たんだとさ……可哀相ねえ。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
燃え下がった蝋燭ろうそくの長く延びたしんが、上のはしは白くなり、その下は朱色しゅいろになって、氷柱つららのように垂れた蝋が下にはうずたかくり上がっている。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あざやかに潤いがあるとでも言ったらよいか。藪から乗り出した冬青もちの木には赤い実が沢山なってる。渋味のある朱色しゅいろでいや味のない古雅な色がなつかしい。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
僕んちはここから十三丁も離れているが、高台たかだいに在るせいか、家の屋上からあのネオン・サインがよく見える。それは朱色しゅいろ入墨いれずみのように、無気味ぶきみで、ちっとも動かない。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
会場へ入るには手頸てくびのところに入墨いれずみしてある会員番号を、黙って入口の小窓の内に示せばよかった。だから僕にも「べに四」と朱色しゅいろの記号がってあり、それは死ぬまで決して消えはしないのである。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)