暢達ちょうたつ)” の例文
俺は久し振りに運動したので心神の暢達ちょうたつをおぼえ、湖畔の石に腰を掛けて浮ヶ島の方を眺めていると、一艘のボートが湖上を漕弋そうよくして来た。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それと同じように、彼を駭かしたものは瑠璃子夫人の暢達ちょうたつ仏蘭西フランス語であった。仏法出の法学士である信一郎は、可なり会話にも自信があった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
極めて軽妙に文章の真実らしさを調ととのえることもでき、従而したがって言おうとする内容を極めて暢達ちょうたつに述べとおすこともでき
文章の一形式 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
行文こうぶん暢達ちょうたつと、其れ等に依って生き生きと表現されて居る人間の肉欲生活の葛藤とにあるのだろうと思う。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何によらず見処みどころのある骨董を、好きならば手にして楽しむ方が、暢達ちょうたつした料簡というものだ。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
暢達ちょうたつ、流るゝが如きものがあった。僕はこんなに緊張した菊太郎君を見たことがなかった。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ドイツ人らしい融通のきかない堅さから救われて、暢達ちょうたつな、情緒豊かな歌い手だ。表現の内容的な良さはヒュッシュに及ばないが、『詩人の恋』一曲だけでも存在価値のある人だと思う。
故に人の干渉をたのみ人の束縛を受るの人民は、なほ窖養こうようの花、盆栽の樹のその天性の香色を放ち、その天稟てんぴん十分の枝葉を繁茂暢達ちょうたつせしむること能はずして、にわかにこれを見れば美なるが如きも
暢達ちょうたつの文人だけに運筆ははやかった。ただ難かしくなるまいなるまいとたえず用心した。いかにして愚劣なものを書くべきかと努力した観があった。それはこういう思いきり洒落のめした物語であった。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「お手紙なら、此方こちらにお預りしてありますのよ。」と、云いながら、薄桃色の瀟洒しょうしゃな封筒の手紙を差し出した。暢達ちょうたつな女文字が、半ば血迷っている信一郎の眼にも美しく映った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)