明間あきま)” の例文
気絶しているお花を隣の明間あきまへ抱えて行く。狭い、長い廊下に人が押し合って、がやがやとののしる。非常な混雑であった。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
尤も明間あきまは無かつたから、停車場に迎へに来て呉れたも一人の方の友人——目形君——と同室する事にしたのだ。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おれはキキイの住んでる部屋をのぞいて見たことはないが、下宿の細君が参考に見て置けと云ふので、ある日屋根裏へ昇つて行つてキキイの隣の明間あきまを見たことかある。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
お君が米友を案内して来たのは、自分の部屋とは離れた女中部屋の広い明間あきまであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「僕ももう少し早く覚醒かくせいすればよかったのだ。今じゃもうおそい。」と種田は腰巻の干してある窓越しに空の方を眺めたが、思出したように、「明間あきまがあるか、きいてくれないか。」
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
敵方といふのは、年若な準教員——それ、丑松が蓮華寺へ明間あきまを捜しに行つた時、帰路かへり遭遇であつた彼男と、それから文平と、斯う二人の組で、丑松に取つてはあなどり難い相手であつた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
下宿は実に幾軒もあるが、時節が悪いので大抵ふさがつてゐるし、明間あきまがあるのを見れば不潔で住む気にはなれない。私は一人さびしく途中で午食を済まして、それから日本媼を訪ねた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
お客が少ないから明間あきまが多く、蒲団ふとんや夜具をほうり込んだままのもある——兵馬は足音しずかに行くと、そのうちの一間からふいに飛び出して廊下を横に切って、忍び足にかけ行くものがある。
大菩薩峠:05 龍神の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)