明確はつきり)” の例文
「まだ御うつりにならないんで御座いますか」女の言葉は明確はつきりしてゐる。普通の様にあとにごさない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
看護婦さんは行儀の正しい無口な女で、物を言へば薄い銀線の触れ合ふ様なんだ声で明確はつきりと語尾を言ふ。感情を顔に出さずに意志の堅固さうな所は山口県生れの女などによく見る型である。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「御存じなの」と云ひながら、二重瞼ふたへまぶち細目ほそめにして、男のかほを見た。三四郎を遠くに置いて、却つて遠くにゐるのを気遣きづかぎた眼付めつきである。其癖まゆ丈は明確はつきり落ちついてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
秋晴と云つて、此頃は東京のそら田舎いなかの様に深く見える。かう云ふそらしたきてゐると思ふ丈でもあたま明確はつきりする。其上そのうへ野へれば申し分はない。気がび/\してたましい大空おほそら程のおほきさになる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)