旧套きゅうとう)” の例文
旧字:舊套
然るに血気盛りの学生たるもの猶学校の空位空聞に恋々たる其の心事の陋劣にして其思想の旧套きゅうとう陳腐を脱せざる事真に憫笑すべきなり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここでは旧套きゅうとうの良心過敏かびん性にかかっている都会娘の小初の意地も悲哀ひあい執着しゅうちゃくも性を抜かれ、代って魚介ぎょかいすっぽんが持つ素朴そぼく不逞ふていの自由さがよみがえった。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
閣下の外交方針が依然として旧套きゅうとうを脱せず、×国に対する戦争の危機を緩和せんとする努力を毫末ごうまつも示さざるのみならず
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
惰力の為めに面白くもない懶惰らんだな生活を、毎日々々繰り返して居るのが、堪えられなくなって、全然旧套きゅうとう擺脱はいだつした、物好きな、アーティフィシャルな
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わずかに地理歴史の初歩を読むも、その心事はすでに旧套きゅうとう脱却だっきゃくして高尚ならざるを得ず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
はじめあんたは、まわりのものから強いられる旧套きゅうとうな生活に反抗するため、わたくしを自由結婚の相棒にして、通俗や常套の鼻を明かそうと企んだのでしょう。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
天下の人心すでに改進に赴きたりといえども、億兆の人民とみに旧套きゅうとうを脱すべきに非ず。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
或は市中公会等の席にて旧套きゅうとう門閥流もんばつりゅうを通用せしめざるは無論なれども、家に帰れば老人の口碑こうひも聞き細君さいくん愚痴ぐちかまびすしきがために、残夢ざんむまさにめんとしてまた間眠かんみんするの状なきにあらず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
人間性の自然から、独創力から、純粋のかんから、物事の筋目を見つけて行かうとする自分のやり方がいかに旧套きゅうとうとらはれ、衒学げんがくにまなこがくらんでゐる世間に容れられないかを、ことごとく悟つた。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)