教唆きょうさ)” の例文
意外な処で村岡に出逢であった時の様子から思合せて、自分が車から突落されたのも、事によると清岡さんの教唆きょうさから起った事かも知れない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いろいろと誣言ふげん教唆きょうさした、采女は養子のことでもあるし年も若いので、二人におどされ云いくるめられた結果、心ならずも同意しただけである。
初めのほどは、女からの激しい教唆きょうさで、つい悪事を犯し始めていた市九郎も、ついには悪事の面白さを味わい始めた。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
吾人ごじんは彼がみずから処する所以ゆえんを視、人に処する所以を見れば、他の自から水を飲み、人に酒を強い、他を酔倒せしめて、みずから快なりとする教唆きょうさ慷慨こうがい家の甚だいやしむべきを知るなり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
我々が悪いのです。君にしろ僕にしろ、そういう男がなかったかと、こちらから問を構えて、彼を教唆きょうさした様なものですからね。それに、彼は僕達を刑事かなんかと思違えていたのです。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「これも昔こゝで殺されたお公卿くげさまです。この人の亡霊が俊基朝臣の亡霊を教唆きょうさして蛇身鳥刃の雉に化けさしたのですから、この石塊いしっころ見たいな墓が謂わばこの辺の名所旧蹟一体の築源地ちくげんちです」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
心の中には、哀れな孝行娘の影も残らず、人に教唆きょうさせられた、おろかな子供の影も残らず、ただ氷のように冷ややかに、やいばのように鋭い、いちの最後のことばの最後の一句が反響しているのである。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あのは幽霊の真似をして人をおどして慰むような剽軽者ひょうきんものではございません。必ず誰かが教唆きょうさして殺されるように仕組んだので、教唆したものは綾子さん、大木戸伯と貴女あなたほかには、私に心当りは無い。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一家の害悪を止むるに非ずして却てこれを教唆きょうさするものなり。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
この悪風の生ずる処一つには遊芸師匠の教唆きょうさによるものにして、師匠は芸者の名を借りて門戸を張らんとし新聞におさらひの評判出るを以て流派の面目と思ひなしたり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
そうか。ちっとも知らなかった。よくある話だが、一体そういう事はどうして起るものだろう。最初男があん教唆きょうさするのか、それとも女が勝手にやり出してから、男の方がそれを
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)