ぬす)” の例文
人民はこれ狼が説法して羊を欺き、猫が弾定に入るといつわって鶏をぬすまんとするに等しと嘲弄し、何の傾聴することかあらん。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
『論語』(子路)を見ると、直躬といふ者が、その父が他人の羊をぬすんだ内事を、官憲に訴へ出たことを、孔子は人情に背ける行爲と非難して
葉公、孔子に語って曰く、吾が党に直躬ちょっきゅうというものあり、その父、羊をぬすみて、子これあらわせり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
いわんや我邦の如きは、現時条約の改正すべきあり、日清韓の関係を正すべきあり、強国土壌を接して我がすきうかがうあり、富土海城を浮べて我が利をぬすまんと欲するものあり、その国勢の切迫する
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
なほ源頼朝のひるしまに在りしや、わづかに伊豆一国の主たらんことを願ひしも、大江広元を得るに及びて始めて天下をぬすみしが如き也、正統記大鏡等、けだし其跡に就いて而して之を拡張せる也、故にらず
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
葉公しょうこう孔子に語りて曰く、わが党にを直くする者あり。その父羊をぬすみて子これを証すと。孔子曰く、わが党の直き者は是に異なり。父は子の為に隠し、子は父の為に隠す。直きことその中に在りと。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
それを公報に載せて職に尽くせしと誇るは、羊をぬすんだ父を訴えた直躬者ちょっきゅうしゃ同然だ。かかる無用の事を聞かせて異種殊俗の民に侮慢の念を生ぜしめ、かなえの軽重を問わるるの緒をひらいた例少なからず。