いじ)” の例文
旧字:
それがじいやにはなんだかいじらしくも思われるので、叱ったりさとしたりして、たびたび断わるのですけれど、どうしてもきません。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そして、いじらしくも指までしゃげてしまった、あの四肢てあしの姿が、私の心にこうも正確な、まるで焼印のようなものを刻みつけてしまったのです
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
(あの可哀そうな旅の武士は、自然に一人で俺達の郷へ、いじめられるために駆けて行く)
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お熊は容貌きりょうのよい情の深い女で、ほかに頼りのない身の上を投げかけて、かれ一人を杖とも柱とも取りすがっているのを徳三郎はいじらしくも思った。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
四人連れのひとりは死ぬ、ひとりはどっと寝ているので、あとに残った元子と柳子のふたりは途方に暮れたような蒼い顔をして涙ぐんでいるのもいじらしかった。
五色蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼もいじらしいお染のからだを濁り江の暗い底に長く沈めて置きたくないので、重代の刀を手放しても、彼女を救いあげて親許へ送り帰してやりたいと思っていた。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かえって何だかいじらしいような気にもなって、二人を列べて見ている彼女の眼がおのずとうるんで来た。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
けさ木場きばの方から見えた若いおかみさんなんぞはほんとうにいじらしいようでございました。
半七捕物帳:10 広重と河獺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)