小布こぎれ)” の例文
こう自棄やけに言い放つと、髪にくしの歯を入れて、何か化粧下のようなものを小布こぎれにそそぎかけて、それを指先に巻きながら、眉、口紅を拭き直している。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は両手へ紐を絡んで引くと、小布こぎれを縫ってこしらえた赤い紐は何の苦もなく、灯心のようにフッと切れます。
「おともさん」が縫いあげた、帯だの、着物だのの賃銀を主屋の方に行ってもらって居る呉服屋の店先で、私は祖母の胴着と自分の袖にするメリンスの小布こぎれを見て居た。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
針箱の抽斗ひきだしをかき廻して、小布こぎれを探しているふうだったが、その物音を聞きとめたものらしく、誰か、中二階の腰窓をあけたかと思うと、梯子はしごの上から
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は兩手へ紐をからんで引くと、小布こぎれを縫つてこしらへた赤い紐は何の苦もなく、燈芯とうしんのやうにフツと切れます。
「行水が濟んでから、家中を探して見ましたが、賣れ殘りの小布こぎれが少しあるだけで何んにもありやしません」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
伝右衛門は手に取って、じっと見つめた。それは古代紫の縮緬ちりめん小布こぎれで、何か小さなものが包んである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主人一人奉公人一人の見る影もない小布こぎれ屋に成り下がり、妹お比奈が折角濱松在から訪ねて來ても、お勝手の板の間より外には、寢かす場所もないといふ有樣だといふのです。
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
しばらくするとそのかげは、小布こぎれで目をおさえたまま、蛾次郎のいるのは知らぬようすで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
指を小布こぎれで巻きながら、お吉はそれへ上眼うわめを送ったが、黙って、顔を振ってみせた。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「新鳥越から向う柳原は、少し遠過ぎるぜ、あの小布こぎれ屋の店はどうするんだ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
丹左は、愚痴ッぽくつぶやいて、彼女の寝ていた後を、猜疑さいぎな眼で見まわした。——見るとそこに、帯の端でも裂いたような小布こぎれが捨ててあった。そのぬのにはすこし血がついている。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「不足なものは、猫の首環だよ。赤い小布こぎれをくけて、小さい鈴をさげた首環」
ズッと足元まで見下ろしてくるに、水辺を見廻していた日本左衛門は、ふと、美鱗びりんをもった魚の如き金襴きんらん小布こぎれが、奔激する水をくぐッて、浮きつ沈みつしてゆくのに眼をられました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「新鳥越から向柳原は、少し遠過ぎるぜ、あの小布こぎれ屋の店はどうするんだ」
銭形平次捕物控:239 群盗 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
娘らしく小布こぎれの箱と物の本二三册と、手習ひ草紙と、古い歌留多かるたと、それに可愛らしいもの細々こま/″\したものが少しばかりあるだけ、貧しさにてつしてろくな紅白粉も、髮の飾りもない痛々しい有樣です。
下着の袖を裂いた紅い小布こぎれを手にしながら——怖々こわごわと寄って
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)