小夜子さよこ)” の例文
庸三は空虚な心のやり場をどこに求めようかと考えるまでもなく、いつも行きつけの同じ大川ぞいの小夜子さよこの家へタキシイを駆るのであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小野さんは孤堂こどう先生と小夜子さよこを連れて今この橋を通りつつある。驚ろかんとあせる群集は弁天のやしろを抜けてして来る。むこうおかを下りて圧して来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「靜岡へ送金することは、私の爲事の一つでしたわねえ。貴方のせんの奥樣の小夜子さよこさんへ手當を差上げるのが。」
計画 (旧字旧仮名) / 平出修(著)
堀越実子じつこ——市川翠扇すいせんという女優の名で出演し、七人ななたり舞女ぶじょは、そのころの新橋七人組といわれた、小夜子さよこ老松おいまつ秀千代ひでちよ、太郎、音丸おとまる栄竜えいりゅう、たちだ。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「いき」な頬は吉井勇よしいいさむが「うつくしき女なれども小夜子さよこはも凄艶せいえんなれば秋にたとへむ」
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
孤堂こどう先生と小夜子さよこは、眠れる過去を振り起して東に行く。二個の別世界は八時発の夜汽車ではしなくも喰い違った。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お神の小夜子さよこは、なまめかしげにちろちろ動く美しい目をしていて、それだけでもその辺にざらにころがっている女と、ちょっと異った印象を与えるのであったが、彼女は一本のお銚子ちょうし盃洗はいせん
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
小夜子さよこは婆さんから菓子の袋を受取った。底を立てて出雲焼いずもやきの皿に移すと、真中にある青い鳳凰ほうおうの模様が和製のビスケットで隠れた。黄色なふちはだいぶ残っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)