家並やな)” の例文
旧字:家竝
言わば、小さな暴君にかれて顧みられない玩具。Or ——発狂した悪魔詩人が、きまって毎夜の夢にさまよう家並やなみ、それがこのハルビンである。
踊る地平線:01 踊る地平線 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
しかし当初この煉瓦造を経営した建築者の理想は家並やなみの高さを一致させた上に、家ごとの軒の半円形と円柱との列によって、丁度リボリの街路を見るように
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
都会も最初のうちは、屋根の形やきかたがおそろいであったらしいことは、火事にあわないいくつかの小さな町の、家並やなみを見ても大よそは想像し得られる。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ここを何処までも真っすぐに行くと川の流れへ出る、人形芝居はその向う河岸の河原でやっているのだと、番頭は云っていたから、川まで行けば家並やなみが終ってしまうのだろう。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
くずしたがけの土で埋め立てをして造った、桟橋まで小さな漁村で、四角な箱に窓を明けたような、生々なまなましい一色のペンキで塗り立てた二三階建ての家並やなみが、けわしい斜面に沿うて
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それはこの学校を何よりも美しく見せ、此町のあらゆる家並やなみをべてゐる中心であつた。そして或意味でそこの校長である父の誇りでもあり、そこへ通ふ生徒の憧憬の的でもあつた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
ところどころ、川べりの方の家並やなみがけて片側町かたがわまちになっているけれど、大部分は水の眺めをふさいで、黒いすすけた格子こうし造りの、天井裏てんじょううらのような低い二階のある家が両側にまっている。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「だれがもうこんなわがままな人の所に来てやるものか」そう思いながら、生垣いけがきの多い、家並やなみのまばらな、わだちの跡のめいりこんだ小石川こいしかわの往来を歩き歩き、憤怒の歯ぎしりを止めかねた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)