安心あんじん)” の例文
しかし素性も知れぬ遊女とはあまり理不尽と申すものです。世間ではこのごろ当流の安心あんじんは悪行をいとわぬとて非難の声が高いときです。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
彼は沼津の生まれではなかった——その出生地をわたしは聞き洩らした——せめては故郷の菩提寺に被害者の石碑を建立こんりゅうして、自分の安心あんじんを得たいと思い立って
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もし昔から世俗で云う通り安心あんじんとか立命りつめいとかいう境地に、坐禅の力で達する事ができるならば、十日とおか二十日はつか役所を休んでも構わないからやって見たいと思った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
左の手こそ、衆生の自分です。かくて、この両手を合わし、南無の精神に生きる所に、はじめて、私どもは、ほんとうに仏我れにあり、我れに仏あり、との安心あんじんを得ることができるのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
ひとりは鈴木安心あんじんという家中の士。並んでいるのが、家老の藤井紋太夫。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「道を尋ねな」と日本語流にくだいたのも、既に当時の人の常識になっていたともおもうが、なかなかよい。この歌には前途の安心あんじんを望むが如くであって、実は悲哀の心の方が深くみこんでいる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
虫のいい極悪人のずるい心がつくり出したような安心あんじんですからね。私は私の曲がった考え方をあなたの前に恥じます。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
もしむかしから世俗せぞくとほ安心あんじんとか立命りつめいとかいふ境地きやうちに、坐禪ざぜんちからたつすること出來できるならば、十日とをか二十日はつか役所やくしよやすんでもかまはないからつてたいとおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
僧三 たださえ世間では当流の安心あんじんは万善を廃するとて非難いたしておるおりでございます。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)