守銭奴しゅせんど)” の例文
旧字:守錢奴
人は、私の守銭奴しゅせんどぶりに、あきれて、憫笑びんしょうをもらしているかも知れないけれど、私は、ちっとも恥じていない。私は、無理をしたくないのだ。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
屋根裏の守銭奴しゅせんど、畑柳庄蔵だ。おれは歓声を上げた。早速あいつの裏をかいて、屋根裏に昇り、一思いに絞め殺してしまった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
友人のA——では分らないが、高利貸こうりがしのA——と云えば誰知らぬ人はあるまい。友人は彼の一人息子なのだ。高利貸のA——は人も知る通り、代表的の守銭奴しゅせんどだ。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
矢崎は明治十九年の十月には処女作『守銭奴しゅせんどはら』を公けにし、続いて同じ年の暮れに『ひとよぎり』を出版し、二葉亭に先んじて逸早いちはや嵯峨さがむろの文名を成した。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彼は浪費家であるけれども、根は吝嗇りんしょくで、つまりキンケン力行りっこうの世人よりもお金を惜しみ物を惜しむ人間の執念を恵まれているのだが、守銭奴しゅせんどの執念をもちながら浪費家だ。
オモチャ箱 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
清岡は駒田の事をつめに火をともす流儀の古風な守銭奴しゅせんどだと思っている。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白痴、幽霊、守銭奴しゅせんど、狂犬、ほら吹き、ゴザイマスル、雲の上から小便。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そして彼女は、今時余り聞かぬ話だけれども、守銭奴しゅせんどの心理は、古今東西を通じて同じものと見える、表面的な銀行預金の外に、莫大な現金を自宅のある秘密な場所へ隠しているという噂だった。
心理試験 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けれども青砥は、決していやしい守銭奴しゅせんどではない。質素倹約、清廉せいれん潔白の官吏である。一汁いちじゅう一菜いっさい、しかも、日に三度などは食べない。一日に一度たべるだけである。それでもからだは丈夫である。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
股野は両親も兄弟もなく、孤独な守銭奴しゅせんどだったから、こういう際に電報で呼び寄せるような親しい親戚もなかった。うちとけた友人も少なく、強いて云えば克彦などが最も親しい間がらであった。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ある守銭奴しゅせんどのような老人が、盗難を恐れる余り、そんな妙な家を建てたのですが、全体が土蔵造りで、窓にも縁側にもすっかり鉄板張りの戸がついていて、その上に城郭のような高い土塀を囲らし
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)