婉然えんぜん)” の例文
そこでぼくは彼女達かのじょたち婉然えんぜんと頼まれると、唯々諾々いいだくだくとしてひき受け、その夜は首をひねって、彼女の桃色ももいろのノオトに書きも書いたり
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
婉然えんぜんと笑つてゐる花もある。それが一々みんな、自分の知つてゐる女たちの、色んな瞬間における容姿なり表情なりであることに、大海人は気がつく。
鸚鵡:『白鳳』第二部 (新字旧仮名) / 神西清(著)
殊にそれが、婉然えんぜんと微笑んだ時の、忘れ難き魅力に至るまで、その昔のおもかげをそのままとどめてはいたけれど、十幾年の歳月は、可憐なお下げの小学生を
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それはかれには、婉然えんぜんとして円みのある胴体ばかりでない、美しいある咄嗟の幻想にいざない込んだのであった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
厨房くりやの珠すだれを掻きわけて、良人おっとの前に、あきれ顔を見せた細腰さいようの美人がある。三日月の眉、星のひとみ、婉然えんぜんと笑みをふくんだ糸切り歯が柘榴ざくろ胚子たねみたいに美しい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
権頭が板場へ顔を出すと、二十七八になる女が現われた。眼と唇つきのみだらがましい、しかしずばぬけた縹緻きりょうである、——彼女は土間へやって来て婉然えんぜんと三人にうなずいた。
婉然えんぜんとする。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼女はゆるやかに十二単衣ひとえを着け終ると、淡紫の檜扇ひおうぎ(もちろんガラス製であるが)をもつて顔をおおひながら、橋がかりへ歩を移し、そこで扇をかざして婉然えんぜんと一笑した。
わが心の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
こんな立話のまも、彼女はそわそわとびんのおくれ毛や唇紅べにせを気にして、また、つと鏡の間へ入って、身粧みじまいを見直し、それからやっと如海の前へ出て、婉然えんぜんと、あいさつしていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
婉然えんぜんと一笑また二笑、何やら甘い、幅のある早口で、口上を述べたてる。
少年 (新字旧仮名) / 神西清(著)