妙諦みょうてい)” の例文
と、いかなぞん気ものでも吃驚びっくりして立止まるか静かにあるくかする。一挙両得、叱らずに叱られずにすむ妙諦みょうていである。
「だから貴様はすでに死んだ。おれに斬り殺されたのだ。そこに立っておるのは貴様の亡者だよ。あはははは、戦わずして勝敗を知る。剣禅けんぜん妙諦みょうていだな」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
戦略の妙諦みょうてい、用兵のおもしろさ、勝ち難きを勝ち、成らざるを成す、すべてこういう場合にあります。人間生涯の貧苦、逆境、不時の難に当っても、道理は同じものでしょう。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間は、ついに自分にその妙諦みょうていを教えてはくれませんでした。それさえわかったら、自分は、人間をこんなに恐怖し、また、必死のサーヴィスなどしなくて、すんだのでしょう。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
同じ三月堂の塑造日光月光がっこうの両菩薩ぼさつ像もその傾向を推し進めたものであり、更に戒壇院の四天王像になると聡明な頭脳と余裕ある手腕とによる悠揚せまらぬ写実の妙諦みょうていに徹底している。
美の日本的源泉 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
しかしこんな急な雪渓を上るには、脚上体なく脚下雪なしの妙諦みょうていに到らないとカンジキなしでは心細い、それを草鞋のままで登った南日君は、たしかにこの妙諦を会得した者というてよかろう。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
写生の妙諦みょうていはそこにあるので、この結論は大体間違の無いつもりである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
島田虎之助は剣禅一致の妙諦みょうていに参じ得た人です。もと豊前ぶぜん中津の人。
仏の道に行き、哲学を求め、いままた聖書にたずねるものはなにか——やがて妙諦みょうていを得て、一切を公平に、偽りなく自叙伝に書かれたら、こんなものはらなくなる小記だ。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)