妖冶ようや)” の例文
その妖冶ようやただよいが、いっそうお十夜の鬱憤うっぷんをムカつかせて、所詮しょせん、ただ魔刀のむくいだけではあきたらない気もちと変った。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
淡い散光ライムの下で昨夜通りの書割の前で、法水はあの妖冶ようや極まりない野獣——陶孔雀の犯罪顛末を語り始めたのであった。
オフェリヤ殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その技巧のすばらしさは、録音のよさとともに倍加したが、同時に、濃艶、妖冶ようやな音も昔に倍加した。
殊に怪しきは我が故郷の昔の庭園を思ひ出だす時、先づ我が眼に浮ぶ者は、爛熳らんまんたる桜にもあらず、妖冶ようやたる芍薬しゃくやくにもあらず、溜壺に近き一うねの豌豆えんどうと、蚕豆そらまめの花咲く景色なり。
わが幼時の美感 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
正業の女には見られない妖冶ようやな趣が目につくようになった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
見ると、ことばの通り、もう戸締りをして寝ていたものに相違ありません、髪をぞんざい結びにした二十四、五の肌の白い女が、二尺ほど明けた戸の隙に妖冶ようやな姿を細長く見せていて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて、その妖冶ようやな性質を、法水さんに吟味して頂きたいですがね。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
木枕のきしみに、あの、妖冶ようやな顔を仰向あおむけにしたままのそら寝入り……。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女はくちを曲げてつぶやいた。割竹のいたみがうずくたびに、彼女はよけい世の中に強くなろうとした。その底には、数奇な運命にねじけて来た性格が、ようやく年を経て、妖冶ようやな花をもちかけていた。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)