奇怪きっかい)” の例文
へい、それが間に合いませんので……火を引いたあとなもんでなあ——何のうらみか知らないが、こうなると冷遇を通り越して奇怪きっかいである。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼠色の雨空、濡れた蘆、ぬるぬると粘菌類や陰科植物の繁殖した沼地、……それは奇怪きっかいな鬼火の伝説がなくとも、実に不気味な、陰惨な光景だった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ナニ、奇怪きっかいな言葉のはしばし——手を下して恨みを晴らすべきものをも、討たずに忍んでいると言うのか? そなたは敵持かたきもちか? これ、雪之丞」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それがまた奇怪きっかい千万な噂でしてな、チチコフの買いこむ農奴というのは、決してあたりまえの農奴ではなく、また移住させる目的なんてことも出鱈目で
それよりも更に奇怪きっかいなことは、この僧が狗に噛み殺されて、貉の正体をあらわしたと伝うる場処が、或いは書画の数よりも多いかと思うくらい方々の村にあることである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
岡山「そんな不具者かたわもんの顔を立てんでもい、拙者どもは芸妓げいしゃ小峯を呼びに遣わしたる処、病気と欺き参らんのみか、向うへ来て居るのは甚だ奇怪きっかいに心得るから申すのだ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ことに清川八郎こそ奇怪きっかいなれ、彼はいったん新徴組の幹部となった身でありながら、蔭には勤王方に心を運ぶ二股者ふたまたもの、まず清川を斬れとその計画がいま熟しつつあるので
然るに、何かは存ぜず、渡りに舟の臙脂屋が申出、御用いあるべしと丹下が申出したは不埒ふらちでござろうや。損得利害、明白なる場合に、何を渋らるるか、此の右膳には奇怪きっかいにまで存ぜらる。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
奇怪きっかいな——仰せられる御言葉とも思えぬ。某が——」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「え。お次さん……。その藪八という奇怪きっかいな武家が、石焼豆腐で夕方から一酌やっていたと、自分でいっていたわけだ。思いつきの出まかせにしては、乗っていた駕籠との縁がありすぎる。……何か、思いあたることはないかね」
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平造老人の話を聞いただけでは多少まだ疑わしく思っていた敦夫も、この妹の哀れな変りようを見ては奇怪きっかいな事件の真実さを認めずにはいられなくなった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
後年この祭式が衰頽すいたいして、奇怪きっかいな姿をした色々の神霊が出現したことが、『南島雑話』のような外来人の書いたものにあるのを見ると、或る者は意識してこれにふん
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
どうも此方こゝへは病気でめえられませんと云うて向うに居るのは奇怪きっかいじゃアねえか、どう云う次第であるか、胸を聞こう、向うへ挨拶なら此方こゝへも挨拶だけ来て貰わねえばなんねえ
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それを貴様は同郷人だと言いながら、言語道断にこき卸す、奇怪きっかいな奴だ——
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殺生谷と呼ばれるのはそのためで、それ以来其処そこには殺された土人たちの怨霊おんりょうこもって、青い鬼火が燃えたり、幽霊の叫びが聞えたり、色々と奇怪きっかいな事が起るのであった。
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その珍らしい地名の評判から新たに国の外にそのような奇怪きっかいな島、そこに行けば死に別れた親はらからにもえるというような、また一つの同名の島を空想し始めたとも
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
白々しらじらしい言いわけを申すな。どうも当節は、ややもすればお上の御威光を軽く見る奴があって奇怪きっかいじゃ、見せしめのために厳しくせんければならん。亭主、この上かれこれ申すと貴様も同罪だぞ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
なるほど天狗という名だけは最初仏者などから教わったろうが奇怪きっかいはずっと以前から引続いてあったわけで、学者に言わせるとそんなはずはないという不思議が、どしどしと現れる。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その結果支那から入った陰陽道おんようどうの思想がこれと合体して、『今昔物語』の中の多くの鬼などは、人の形をそなえたり具えなかったり、孤立独往して種々の奇怪きっかいを演じ、時としては板戸に化けたり
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)