天城あまぎ)” の例文
「しばらくでございました」突然、二年ぶりに、こういって角間の草庵へ顔を見せたのは、故郷ふるさと天城あまぎへもどっていた生信房しょうしんぼうであった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
思はず脊延びして見渡すと遠く相模湾の方には夏の名残の雲の峯が渦巻いて、富士も天城あまぎいぶつた光線に包まれて見えわかぬ。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
遠く、叢の切れた一方に明るく陽をうけて幾つかの草山が見え、柔かなその曲線のたたなはる向ふに藍色に霞んだ「天城あまぎ」が空を領してゐる。
測量船 (新字旧仮名) / 三好達治(著)
松茸まつだけと同じように開かないのが上等だ。これを料理して食べると実に美味うまいぜ。それから天城山あまぎざん山葵わさびも買って来た。山葵は天城あまぎが第一等だね。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
ハンガーに掛けながした仮縫いの服の間から、サト子たちがマネジャーと呼んでいる天城あまぎという事務員が顔をだした。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ちちのみの父のみ身、ははそばの母のみたま、老いませば、常無けばあはれ。風花かざばな天城あまぎの杉を、うらら日を、何とはなくて吹きちらふその影にかも、心は寄する。
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
日は、深くかげっていた。汽車の進むに従って、隠見する相模灘さがみなだはすゝけた銀のごとく、底光をおびたまゝよどんでいた。先刻さっきまで、見えていた天城あまぎ山も、何時いつの間にか、灰色に塗り隠されてしまっていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
伊豆の天城あまぎから見た富士もまた見ごとなものであつた。愛鷹からと云ひ乙女峠からと云ひ、贅澤を言ふ樣だが實は少々近過ぎる感がないではなかつた。
天城あまぎの悪四郎とかいって、近ごろ寺院ばかり襲い廻る強盗のむれがあると聞くが、そんな者の手下でもあるか?
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天城あまぎ雪の鎮めと伊豆びとは何をもて遊ぶ歌をもて遊ぶ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
富士からと天城あまぎからとの
樹木とその葉:13 釣 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)