大塚おおつか)” の例文
この老婆ろうばは以前は大塚おおつか坂下町辺さかしたまちへん、その前は根岸ねぎし、または高輪たかなわあたりで、度々私娼媒介ししょうばいかいかどで検挙せられたこの仲間の古狸ふるだぬきである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
かねやすまでを江戸のうちと言った時代、巣鴨すがも大塚おおつかはそれからまた一里も先の田舎で、田も畑も、武蔵野のままの木立もやぶもあった頃のことです。
本町ほんまち大塚おおつかさん、鴇窪ときくぼ井出いでさん、その他の娘たちとともに、荒町あらまちからかよっていたのが小山喜代野さんでした。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
僕は高橋信造たかはししんぞうという姓名ですが、高橋の姓は養家のをおかしたので、僕の元の姓は大塚おおつかというです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
実に伯父さまは一通りならざる智者ちしゃだから、わたくしは本当に怖いよ、私も放蕩ほうとうを働き、大塚おおつかの親類へ預けられていたのを、当家こちらの伯父さんのおかげうちへ帰れるように成った
葉子はこうしたさびしさに促されて、乳母うばの家を尋ねたり、突然大塚おおつかの内田にあいに行ったりして見るが、そこを出て来る時にはただ一入ひとしおの心のむなしさが残るばかりだった。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
君は高円寺一丁目の文士青地大六あおちだいろくさんでしょ? ふん、ふん、そんなら焼死体は、君の家主の好意で三丁目の大塚おおつか外科病院に収容して有るから、早やく行って始末をして来給え
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
電話が自働式に変わると同時に所属局が「小石川こいしかわ」から「大塚おおつか」に移り、さらにまた番号がもとより三〇〇〇だけ数を増した。なんだか自分のうちが遠い所へ持って行かれたような気がする。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
江戸は『八犬伝』の中心舞台で、信乃しのが生れ額蔵がくぞうが育った大塚おおつかを外にしても神田かんだとか湯嶋ゆしまとか本郷ほんごうとかいう地名は出るが「江戸」という地名は見えない。江戸城を匂わせるような城も見えない。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
本郷区ほんごうく富坂町とみざかちょう、太田てつ。大塚おおつか辻町つじまち宮原こう。赤坂区あかさかく氷川町ひかわまち吉岡つゆ……。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)