外方そっぽ)” の例文
今までにだって、おりを見ては何度となく意中を伝えてあるのだが、お妙はそのたびに外方そっぽを向いて、いつもつれない様子を見せて来た。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
憂愁をたたえた清らかな眼差まなざしは、細く耀かがやきを帯びて空中を見ていたが、栖方を見ると、つと美しい視線をさけて外方そっぽを向いたまま動かなかった。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
あの幼い人が先生の顔を見い見いして神経をつかっているのに、先生は路傍の人の態度で外方そっぽむいているじゃありませんか。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はいつもこんなふうに考えていたのです——『私だということがわからんはずがない、だのに外方そっぽを向いて行く、なるほど九年の歳月は爭われんものだ』
姿には異状はなかったが、様子に腑に落ちないところがあった。と云うのは鉄之進が眼をやった時、急に話を止めてしまって、揃って外方そっぽを向いたからである。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
挨拶をしてるのに外方そっぽを向かれることもあるし、黙ってるのに丁寧な挨拶をされることもあった。両方うまく調子が合うことは稀で、大抵は気まずい思いが残った。
変な男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
それから、小駅を二三通過する間、私達はおたがいの隅に坐ったまま、遠くから、時々視線をまじえては、気まずく外方そっぽを向くことを、繰返していた。外は全く暗闇になっていた。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
成程采女の社というのは鳥居だけが池に面して御本尊はツンと外方そっぽを向いている。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さすがにテレて娘は桃色の布の端をひっぱりながら、外方そっぽを向いてる。——
ズラかった信吉 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その間法水は外方そっぽを向いて、この室の異様な装飾を眺めていた。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
顔の筋肉などの硬張こわばったお増は、適当のことばも見つからずに、淋しい笑顔えがお外方そっぽへ向けたきりであったが、その目は細君の方へ鋭く働いていた。そして細君が何を言い出すかを注意していた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と三輪さんがこれも水飴を頬張ったまゝ、外方そっぽを見ながら尋ねた。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)