埃臭ほこりくさ)” の例文
平次はひまで/\仕樣のない日を、一杯呑むほどの工面くめんもつかず、相變らず埃臭ほこりくさい粉煙草をせゝつて、八の來るのを待つて居るのでした。
俊助しゅんすけは答礼の帽を脱ぎながら、埃臭ほこりくさい周囲の古本と相手のけばけばしい服装との間に、不思議な対照を感ぜずにはいられなかった。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
埃臭ほこりくさい男の体臭が、かへつて哀れに思へて、ゆき子は、環境で変つてゆく人間の生活の流れを不思議なものと悟る。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
四方一帯、春昼の埃臭ほこりくささのなかに、季節に後れた沈丁花じんちょうげがどんよりとまきの樹の根に咲き匂っている。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
古編笠をかぶった浪人者が一名、埃臭ほこりくさ蝙蝠羽織こうもりばおりに、溝染どぶぞめあわせを着、肩をそびやかして傲然ごうぜんと、門前に突っ立っている。——そしてそれを囲んで、門番や家来の者たちが
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日本の魔法使も、埃臭ほこりくさ飛田とびたの土の中から、コスモスの芽生めばえには似てもつかない色々いろんな物を見せてくれる。業突張ごうつくばりの予選派のつらくひしん坊の同志会の胃の腑。泥だらけな市長の掌面てのひら……。
が、埃臭ほこりくさとばりを垂れた、小舸せうかのやうな寝台の中には、さすがにまだ生暖い仄かな闇が残つてゐた。
南京の基督 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「八、頭から、そのむしろを冠れ。少しは埃臭ほこりくさいが、我慢をしろ」
「八、頭から、そのむしろを冠れ。少しは埃臭ほこりくさいが、我慢をしろ」