たん)” の例文
畳の上に焼けこがしをなし、火鉢の灰にたんを吐くなぞ、一挙一動いささかも居室、家具、食器、庭園等の美術に対して、尊敬の意も愛惜の念も何にもない。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
実に何んともいいようのない疼痛とうつうを感じて、いてもってもいられない位……僂麻質斯リューマチスとか、神経痛とかいうのでもなく何んでもたん内訌ないこうしてかく全身が痛むのであるとかで
すると彼はのどもとに今までに知らないかゆさを感じ、思はず辞書の上へたんを落した。啖を?——しかしそれは啖ではなかつた。彼は短い命を思ひ、もう一度この椰子の花を想像した。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
突然烈しいせきが大川を襲った。たんがのどで鳴った。明かに大川は断末魔に迫っている。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
ぜいぜいいうのは喘息ぜんそくがあり、たんが、切れないから苦しいのだと言った。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「井の端にもの洗ひる我が妻はたん吐く音に駆けてきたれる」
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
たんと、薬と、涙とにてり。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
たんがつまる音じゃ。」
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)