たず)” の例文
庭木に吊るした籠の中の声を聞いて、客はふしぎそうにたずねるのである。そして本物の猫も不思議そうに籠を見上げるくらいである。
懸巣 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
煮売屋にうりやを開いております私の弟の処へ立ち寄りまして「うちの若旦那を見かけなんだか」とたずねますと
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
首をかしげてたずねたが、自分が黙ッていたのを見て、自分のかしらを撫でようとした、自分はその手をふり払い、何か言ッてやろうと思ッたが、思想がまとまらなかッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
「それでね、善さん、お前さんどうなさるんですよ」と、吉里は気遣わしげにたずねた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
職人はやや心配しながら、またいたわるようにこうたずねた。
おもちゃの蝙蝠 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
わたくしはそれをたずねて見ないあいだは心の落着きをとり入れられませんので、老媼ろうおうにこう尋ねて見たのでございます。
玉章 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
この小さな無三四は狡猾こうかつにも姉に向ッて、何食わぬ貌で,「叔父さんは?」とたずねた,姉は何とかこたえていたが自分はそんなことは聞きもせず、見ぬふりで娘の方をちらりと見て
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
「あれは東雲しののめさんの座敷だろう。さびのある美音いいこえだ。どこから来る人なんだ」と、西宮がお梅にたずねた時、廊下を急ぎ足に——吉里の室の前はわけて走るようにして通ッた男がある。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「お神さんはどうなすッたんです」と、ややあってたずねた吉里の声も顫えた。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)