吸子きゅうす)” の例文
彼女は畳に片手をついて吸子きゅうすのお茶を茶碗ちゃわんいだ。彼の寝所へ入ったのは、すでに一時過ぎであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と茶盆に眼を着け、その蓋を取のけ、ひややかなる吸子きゅうすの中を差覗さしのぞき、打悄うちしおれたる風情にて
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金屏風の前へかしこまって、吸子きゅうすに銀瓶の湯をいで、茶でも一杯と思った時、あの小児こどもにしてはと思う、おおき跫足あしおとが響いたので、顔を出して、むこうを見ると、小児と一所に、玄関前で
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
判事に浮世ばなしを促されたのをしおにお幾はふと針の手を留めたが、返事よりさき逸疾いちはやくその眼鏡を外した、進んで何か言いたいことでもあったと見える、別の吸子きゅうすたぎった湯をさして
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その茶の間の一方に長火鉢を据えて、うしろに竹細工の茶棚を控え、九谷焼、赤絵の茶碗、吸子きゅうすなど、体裁よく置きならべつ。うつむけにしたる二個ふたつ湯呑ゆのみは、夫婦めおと別々の好みにて、対にあらず。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)