取逆上とりのぼ)” の例文
現に藤枝蔵人様も、あの手紙を見ると、三十一年目でわが子に逢う嬉しさに取逆上とりのぼせ、謎のような事を言って飛んで行ったそうです
余りの事に、取逆上とりのぼせさしったものと見えまして、喜太郎様はその明方、裏の井戸へ身を投げてしまわしった。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(娘の肩に優しく手をかける。)おまへは少し取逆上とりのぼせてゐる。まあ、まあ、おちついてよく考へるが可い。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
と云ひければ忠兵衞はかしらをあげ長庵殿には取逆上とりのぼせしか貴殿の云ふ事少しも分からず申せば長庵聞て譯らぬとは麁言そごんなり貴樣こそ取逆上とりのぼせしとみえたり密夫まをとこたりと我口より云て居る此長庵を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
と思ったので宗達はカアーと取逆上とりのぼせて、お竹が持っていた合口を捻取ねじとって
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
年を取つた主人と掴み合ひをしたわけではないが、お互に憎さ口惜しさに取逆上とりのぼせて、ひどい睨み合ひになつたことだらう——
たとひ膚身はだみけがさずとも、をつとれた、とひ、はづかしいのと、口惜くやしいのと、あさましいので、かツと一途いちづ取逆上とりのぼせて、おつや兩親りやうしんたち、をつとのまだかへらぬうちに、扱帶しごきにさがつて
一席話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「余程の大事でしょう、あんなに落着いた人が、ひどく取逆上とりのぼせて、変な事を言いながら飛んで行きました——が」
極りの惡さと腹立たしさに取逆上とりのぼせて、急に卒中を起したことだらう。善兵衞はそのまゝバタリと倒れてしまつた。
この間もここへ来てみると、痛々しく取逆上とりのぼせた主人の六兵衛を、蔭になり日向ひなたになり、慰めたり、いたわったりしていたのはその娘だ。その娘の眼には、なんの罪もよごれもなかった
佛の前にはにはかのことながら一と通りの香華を供へて、主人のめかけお春と、主人には義理のある伜の松次郎と、その妹分で、いづれは松次郎と祝言させる筈の貰ひ娘のお袖が、ひどく取逆上とりのぼた樣子で