卒都婆そとば)” の例文
「では、この供養塔と卒都婆そとば、これは誰がしたのですか、縁もゆかりもない人がしたとしては、いささか念が入り過ぎている」
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところどころの巌角いわかどに波くだけ散る。秋。成経浜辺はまべに立って海のかなたを見ている。康頼岩の上に腰をおろして木片きぎれにて卒都婆そとばをつくっている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そこから遠くに見える狗留孫山くるそざんの絶頂に、卒都婆そとば石、観音石という二つの大岩が並んでいて、昔はその高さが二つ全く同じであったのが、後に観音石の頸が折れて
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
玄奘三蔵の『大唐西域記』巻十二烏鎩国うせつこくの条に、その都の西二百余里の大山頂に卒都婆そとばあり、土俗曰く、数百年前この山の崖崩れた中に比丘びく瞑目めいもくして坐し、躯量偉大、形容枯槁ここう
そして浜の砂丘には、身寄りの者が建てたらしい卒都婆そとばが毎日のようにふえていた。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
康頼は、何としても故郷の恋しさに耐えられなかったので、せめてもの心の足しにと、千本、卒都婆そとばを作り、梵字、年号、月日、それに、平判官康頼と署名し、二首の歌を書きつけた。
翁が能静氏から「道成寺」「卒都婆そとば小町」を相伝したのはこの時であった。それから後、翁の出精しゅっせいがよかったのであろうか。それとも能静氏が、自分の死期の近い事を予覚したものであろうか。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
が、通り過ぎた時に、チラと見た所に依ると、二人が、つい近く失ったばかりの肉親のお墓まいりをしていたこと丈は、明かだった。幾本も立っている卒都婆そとばが、どれもこれも墨の匂が新しかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
きえぬ卒都婆そとばにすご/\となく 荷兮
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
丈余の卒都婆そとばをストリと二つに切って、南無阿弥陀仏の梵字ぼんじを頂いた「我不愛身命」の残骸が下に、残る所の一面には、「但惜無上道」が冷々たる寂光を浴びて
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その小さな卒都婆そとばが何百里という遠い海をただようて都のほうの海べに着くということがありましょうか。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
卒都婆そとば流し
あなたはわしがどれほど故郷こきょうしたっていたか知っていられよう、そのために頼むべからざるものをも頼みとしていたことを。熊野神社くまのじんじゃ日参にっさんしたことも、千本の卒都婆そとばを流したことも。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
文字の読みかねた二三本の卒都婆そとばが突き刺されているのを認めました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)