勘平かんぺい)” の例文
おかる勘平かんぺい道行みちゆきといつたやうな、芝居の所作事しよさごとと、それにともなふ輕く細く美しい音樂とが、しきりに思ひ出されて來た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
わたしはこの人たちによって、不完全ながらも「鞘当さやあて」や、「熊谷陣屋くまがいじんや」や、「勘平かんぺい腹切はらきり」や、劇に関するいろいろの知識を幼い頭脳に吹き込まれた。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「猪と間違えて人を撃つのは勘平かんぺいみたようなものだが、惣太さん、人を撃つのはよっぽどむつかしいものかい」
由良之助ゆらのすけが春のや(逍遥)で、若狭之助わかさのすけが鴎外で、かおよ御前ごぜんが柳浪、勘平かんぺいが紅葉で、美妙はおかるよ。力弥りきやさざなみ山人なの。定九郎さだくろうが正太夫なのは好いわね。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかしそんなものはこの歳月としつき唯「おかる勘平かんぺい」のような狂言戯作げさく筋立すじだてにのみ必要なものとしていたのではないか。それが今どうして突然意外にも不思議にも心を騒がし始めたのであろう。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
勘平かんぺいらしき男も見えず、ただ隣りの男の眼付やゝ定九郎さだくろうらしきばかりなり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「それなれば、師走しわす狂言の、顔世かおよ勘平かんぺい、見ごとつとめて見なされよ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
これも一種の宿命であるかも知れない。もうその頃には、わたしに「熊谷陣屋くまがいじんや」や「勘平かんぺいの腹切り」を見せてくれた印板屋の定さんはどこへか立去ってしまった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
菊五郎もその年の歌舞伎座十一月興行に「忠臣蔵」の勘平かんぺいと本蔵と赤垣源蔵と、「国姓爺合戦こくせんやかっせん」の和藤内わとうないとを勤めているあいだに発病して、半途から欠勤するのやむなきに至った。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
五段目の勘平かんぺいのような器用なお芝居は出来ません。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)